無理やり売っても売れない
銀座のデパートでのことです。
僕は友人と買い物に行ったのです。友人は以前から気に入っていた靴を買おうとしていました。
売り場に向かう途中、彼は……。

黒い靴もいいし、茶色の靴も捨てがたい。どちらがいいかな
などと話していました。
僕はといえば、正直、その時は靴には興味はなく、他愛もない感じで、「うーん、どちらかね」などと軽く答えていました。ところが、僕はその売り場である場面を目にすることになったのです。
靴の売り場で
売り場につくと、彼は早速棚にある靴を眺めていた。
目当ての黒い靴と茶の靴。その両方があったのです。
彼は言いました。

やっぱり、いいな……。絶対にどちらかは買うよ
興味がなかった僕が見ても、いい靴で。黒と茶、どちらもいい靴です。心の中で「確かに黒もいいし、茶もいいな。でも、自分なら黒かな。あんまり言うと迷わせるから言わない方がいいだろうけど」と考えていました。
僕がそんなことを考えている最中も、彼はずっと悩んでいました。もう買う気満々でした。
ところが……
ところが、ここである店員が近づいてきました。30代ほどの男性の販売員。グレーのジャケットを着ている彼はやや押しの強い口調で話してきました。

その靴は人気がありますよ
言葉は丁寧でした。
実際、ここに書いた「その靴は人気がありますよ」という文章を読んでも、特に問題はない。ただ、なんだか売り込もうとしている雰囲気が伝わってきたし、口調が強かった。
友人もそう思ったのだろう。その瞬間、友人は靴に向けていた視線を外し、その視線を僕に向けて言いました。
「出ようか」
友人は買うのを止めたのです。
直前まで買う気満々だったのです。しかも目的の靴もあった。両方ともです。それなのに買うのをやめたのです。
なぜ、彼は買うのをやめたのでしょうか?
さて……。彼はなぜ買うのをやめたのでしょうか?
ここで先を読まず、少し考えてみてください。
あの時、僕は「どうしたの?」と聞きました。
彼はこう答えました。

完全に買う気だったのに、いきなり買いたくなくなって…
言語化はできないようだったのだけど、要は男性店員が原因だったのは確かでした。
店員に悪気があったわけではない。むしろ、売ろうとしていたのです。ただ、その売ろうとしたことが、友人の買う気をなくさせてしまったわけです。
僕が決裁者として膨大な営業(セールス)を受けていた時にまさにこのようなことが幾度となくありました。
原因は「売り込み」です。
営業(セールス)が売り込もうとすればするほど、決裁者(僕)は「売り込もうとしているな……」と抵抗が生まれるのです。しかも売り込みが強まれば強まるほど、その抵抗が強まるのです。
人は強引に押し入ってくるようなセールスは嫌なのだ。通常の買い物でも、近づいてくる店員に「ただ見ているだけ」と言ったことが僕にも数え切れないほどある。
営業のような対面だって、非対面だって同じです。「売ってやる」と無理矢理押し入ってくるような感じの販売は抵抗が生まれ、嫌がられてしまう。
売ろうとすればするほど、売れなくなってしまう。
膨大な営業の売り込みを受けてきて、強く感じるのは、一流の営業は「売ろう」としている印象を受けない。
売ろうとしないで顧客に売る。それが重要なのです。
(例外として考えられるのは「絶対に買ってくれ。最高の商品なんだ」という本気で情熱のあるセールスは別で。そのような場合は、なぜか抵抗が生まれない)
売ろうとすると顧客は逃げてしまう。
売ろうとしないで顧客に売る。
それが重要なのです。

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