「スティーブ・ジョブズは
世界最高の経営者か? 13」
これまでスティーブ・ジョブズのことをお伝えしてきた。
前回はスティーブ・ジョブズの「市場調査はしない」ということ。
これについて、お話しした。
ジョブズが「市場調査しない、顧客調査しない」ことについて、他の経営者やビジネスマンも「参考にすべきだ」という意見も言われている。
でも、これを単純に参考にしてはいけない。
ジョブズは芸術家。
「イノベーター」などというビジネスの世界におさまる人間ではない。
偉大な芸術家は市場調査などしない。
ゲーテの言葉どおり、「芸術家は自分の内面をさらけ出す」のだ。
自分の内面にあるものを表現する。それこそが芸術だ。
調査をし、それに基づいてつくるという通常の流れではない。
「近代美術館に収められてもおかしくない品質を目指す」というジョブズの言葉にあるように彼は究極の芸術を目指していた。
実際、ジョブズはラインやディテール、丸み、半径、斜角面のサイズなど、様々なことをデザインに関する用語で指摘できた。
ジョブズなら、絵を描いても、それなりの絵が描けただろうが、通常の経営者は絵など描けない人も多い。
ジョブズなら、絵や写真から製品を連想できるが(実際にしているのだが)、通常はそれは難しい。
「調査をやらないこと」こそ、優れた製品を作るヒントだというのはその意味で多くの経営者にとっては間違っている。
ジョブズ同様の芸術家である経営者は良いが、いわゆる経営者はビジネスの原則を忘れてはいけない。
そもそも、世間と違う考え方をするのがジョブズ。
むしろ、ジョブズは自分でコントロールをするのを好む、まさに芸術家なのだ。
自分で創り上げたもので世界を変える。
多くの経営者は「芸術」家ではない。
多くの経営者は「芸術」を学んできてはいない。
多くの経営者は「芸術」という言葉さえ発しない。
多くの経営者は「デザイン」が重要だとは考えていない。
多くの経営者は「スティーブ・ジョブズ」ではないのだ。
U2(グラミー賞受賞22回という偉大なロックバンド)のボノは次のように言った。
これは同感だ。
でも、逆に言えば、日本人は既に存在する世界を思い描くのは彼らよりも得意だ。
存在する世界を調査し、それを改善していく力。そこは失ってはいけないところだ。
日本人の歴史自体が、創造より改善だ。その「強み」を忘れてはいけない。
基本的なアプローチである
売上、利益の源泉である「顧客」
その「顧客」を知ること
つまり、調査をすることはやはり重要だ。
(既存にはない。新しい製品をつくることであってもだ。
その場合に必要な調査があるだけだ。)
ここで次のような疑問を持つかもしれない。
「パソコンなどがない時代に、パソコンを生み出す。そのために調査は意味がないだろう」
おそらく、ジョブズであればそう言うだろう。
顧客はパソコンを見たことがないのだ。
見たことがない製品。そのような「革新」。
英語で言えば、「イノベーション」には調査は必要ないと多くの方が思うだろう。
そもそも、「イノベーション」には2つある。
ハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセンの提唱した理論
「イノベーションのジレンマ」ではイノベーションは2つあると述べている。
・「持続的イノベーション」
・「破壊的イノベーション」
難しく感じるかもしれないが、「持続的」と「破壊的」。
言葉どおりの違いだ。
シンプルに言えば、従来の製品を持続させるイノベーションか、従来の製品を破壊するイノベーションかだ。
例えば、テープレコーダー。
それに改良を持続的に加えていくイノベーション(革新)のことを「持続的イノベーション」と言う。
音質をよくしたり、操作性を高めたり、とにかく持続的に革新を加えるものだ。
しかし、従来製品であるテープレコーダーの価値を一気に破壊するイノベーション(革新)がある。
この場合では、MDプレーヤーなどだ。
これは従来の「テープレコーダー」という製品の地位を一気に奪うイノベーションだ。
それが「破壊的イノベーション」だ。
テープレコーダーの時代
多くの家庭にはレコードやCDを録音したカセットテープが数多くあった。
ところが、MDプレーヤーが出現し、徐々に普及し始めると、既存のテープレコーダーを使う人はほぼいなくなる。
まさに破壊されてしまうのだ。
「MDの方が便利だよね」と多くの方がMDプレーヤーに移ってしまう。
このようにMDプレーヤーが出現した時。テープレコーダーは一気に売れなくなる。
市場をオセロのようにひっくり返してしまう。
これこそが「破壊的イノベーション」
ジョブズが行ったのはまさにこれだ
しかも、ビジネスの世界で通常用いられない「芸術」の力を使って「破壊的イノベーション」を行う。
ここで言えば、テープレコーダーのような従来の価値観にとらわれることがないからこそ、新しい製品を生み出すことができる。
だからこそ、パソコンを生み出し、
iTunesを生み出し、それに紐付く、iPodひいてはiPhoneなどを生み出すことができる。
ジョブズが行ったのは「持続的イノベーション」ももちろんあるが、
インパクトのある「破壊的イノベーション」も数多く行なってきた。
(しかも、単なる「破壊的イノベーション」ではない。
もちろん、「破壊的イノベーション」はビジネスの世界では強烈なものだ。
オセロのように従来の製品を破壊してしまうのだから。
でも、「破壊的イノベーション」自体はビジネスの世界ではこれまでもあったものだ。
そこにビジネスの世界で通常使われない強力な「芸術」も利用し、それを実現していた。)
一見、そのような「破壊的イノベーション」の場合、「調査」は不要。
そのように考えるかもしれない。
しかし、イノベーションだけでなく、調査にも同じように2つの調査があるのだ。
ハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセンの提唱した理論に対する「調査」について、私の見解を次回お伝えしたい。
ジョブズの「市場調査はしない」という意見を真似してはいけない理由がここにもある。



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